ハイパーシコシコ自分語りうどん部

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断捨離と3月のライオン

 

『荷物をまとめておけ』

 

帰省してすぐ、父にそう言われた。

どうやら新居に引越すらしい。家も土地も既に購入したらしく、来月には引越しを済ませるそうだ。

普段の父親らしからぬ決断力と行動力に唖然としたまま、私は自室の荷物を整理しはじめた。

 

部屋の机周りには、沢山の思い出の品が並んでいる。仲間との集合写真。好きなバンドのフライヤー。祖母から貰ったキルトのぬいぐるみまで、それらを段ボールへしまおうとするたびに、私の手は止まる。

 

そうして、青く淡いあの日々に想いを馳せた。

 

黒歴史

ここ5.6年の間、私は日記をつけている。日記といっても大層なものでなく、その日にあった出来事や、食べたもの、誰がどうしたかを一言で記したものだ。

それらは大抵手帳に書かれているのだが、その手帳を眺めようとした際に、見覚えのない便箋が挟まっていることに気づいた。

ラブレターだった。

 

私は震えた。思い出した。これは当時付き合ってた彼女と別れる寸前に出そうとして出せなかったラブレターの原案だ。なかなかに攻めた内容だったとは記憶している。

 

額には汗が滲み、手は震え、脇汗はとめどなく流れた。

 

しんどかった。

中身を検めたがなかなかにしんどかった。よくこれを出そうとしたな…と、そう思った。

しかし、私はこれを過去のまま終わらせたくなかった。負けた気がするから。なのでこのラブレターを5年後の自分が添削してみた。

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しんどかった。

なぜ神は私にこんな苦痛を2度も与えるのか。苦しい。苦しかった。

だがこれを黒歴史とは言わない。こっぴどくフラれちゃったけど、あの輝いていた日々は僕にとって宝物だ。何よりこの日々を経てもっと魅力的な人になりたいと思えた。だから、黒歴史じゃなくて、"素敵な経験をありがとう"だと考えを改めた(←かっこつけ)。

 

唯一『もっと本音を言って欲しい』という想いには共感した。おそらくこれは彼女じゃなくて、今の僕へ送る言葉だったのだろう。

 

 

【部活動】

私の人生の中で、胸を張って"頑張った"と言えるものがあるとしたら、それは『部活動』だろう。あの蒸せ返るような暑さの体育館で汗を流し、仲間と共に駆け抜けた日々を私は一生忘れない。あの日々があったから、今の自分がある。そう思えるほどに眩しい日々だった。

懐かしいなあ…と過去に想いを馳せながら、額縁に入った集合写真を眺める。すると、額縁の隅に小さな紙が挟まっていることに気づいた。

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胸が熱くなった。

 

それは、今の自分が抱く感情に、あまりに近かったからだ。

そしてなぜか、救われた気がした。「この道で間違ってなかったんだなあ」と、ほんやりと思うことができた。

 

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不思議だ ひとは

こんなにも時が

過ぎた後で

全く 違う方向から

嵐のように 救われる事がある・・

- 羽海野チカ / 3月のライオン 5巻より抜粋

 

筆者が敬愛する作品のひとつに「3月のライオン」というものがある。

 

史上最年少15歳でプロ棋士となった主人公【桐山零】の "人生の戦い" を『将棋』というテーマで描いた作品なのだが、抜粋したのは、イジメにあっていた零の幼少時代が時を超えてひなたに救われるシーンだ。

 

人は誰しも自分の人生を正しいと思いたがる。そう思うのは、少なくとも私がそういう人間だから。"自分は間違ってなかった"と信じ込むことが、幸せを享受する手段のひとつだからだ。

なんでも自分の都合のいいように解釈してしまうのは、幸せを享受したいからに他ならない。

 

だが、零はどうだろう。

少なくとも、自身が幸せになる為に奔走しているわけではない。自身を救ってくれたひなたのいじめ問題に首を突っ込んでいるうちに、偶然過去の彼自身が救われただけだ。

 

私は零のように、壮絶な人生を過ごしてきたわけではない。ただの少年の、ただの部活動の話だ。

だが、当時は褒められてもちっとも嬉しくなかった「素行」や「信念」というものが、時を超えて認められたことが、私は素直に嬉しかった。

私はプレーが上手いわけではなかった。そのため自己嫌悪に陥ることもあった。だから、他のところで頑張ろうと思った。

なのに、今となってはまるで "君の生き様" なんだよ、と言われて、それが認められてしまったくらいに思えた。

そして、その言葉を噛み砕いて消化できていた。その事実が単に嬉しかった。

 

今の自分が、この言葉の通りに生きているかどうかはわからない。そんな自信もない。

しかし、彼らの想いは間違いなくこうして今の私に届いていた。

 

断捨離をする中でそれを知ることができた、ということが、僕にとっての"救い"だったのだと思う。

 

 

【人生】

人生をどう生きるか。

それは私にとって永遠のテーマなのだと思う。

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- 羽海野チカ / 3月のライオン 15巻より抜粋

 

歳をとるにつれて『生きるのが上手になってしまったなぁ』と感じる。

 

ボールを追いかけていたあの頃のように、ひたすらに"上"を目指していたような我武者羅さは、もうない。熱は、過ぎ去った後に感じることができるものだ。

楽に生きたいと思いながらも、我武者羅に、熱く輝いて生きることをどこかで望んでいる自分がいる。

 

大事なものは移ろいゆく。


だからこそ、いままで大事にしてきたものも、大事にしたいと思えるものも、これから先も大事に抱えて走り続けたい。物も、人も、なにが正しいかなんてわからない。だから自分が正しいと思う道を進みたい。自分を今まで肯定してくれた人達が、間違っていただなんて言いたくないし、言われたくはない。

 

そうして幸せになって、その幸せを分け与えられる人になりたい。

 

その道の先に、自身の切望する"人生をどう生きるか"の「解」があるのだと思う。

 

 

 

気がつくと、長い間思い出に浸ってしまっていた。

整然とした部屋は、いつもより広く感じた。先程まで背景だと思っていたものは、もうない。背景として当たり前に溶け込んでいたという事実だけが、ひどく不気味に思えた。

 

当たり前に思っていたものは、あっけなく消え去ってしまう。埃の被った写真も、少し色あせた手紙も、それらの全てが、僕に大切なことを教えてくれた。

 

 

 

 

 

「これからまた、大事なものが増えてゆけばいいなぁ。」

 

 

そんなことを思いながら、僕は住み慣れた家を出た。

 

 

 

2020.01.05

ぶれぶれのジョニー

(((((( c(・ω・()・ω・)っ)))))