劇場版 誰ガ為のアルケミストを観るその瞬間まで、僕はその作品のストーリーすら知らなかった。知っていたのは、もともとソシャゲが原作の作品で、監督を河森正治さんが務めているということだけ。そのくらい。
ただ推しが出演しているという理由で観にいった映画で、僕は打ちのめされた。
物語の舞台となるバベル大陸では、自らの心の声を聞き、自然の理にかなった方法で術式を展開することで用いられる"錬金術"なるものが存在した。"錬金術"は人々の生活を豊かにした一方で、その強大な力故に争いの火種となった。錬金術"を使う者は"アルケミスト"と呼ばれ、幻影兵(ファントム)という名の過去の偉人を召喚することで世界に迫り来る厄災から人々を守っている。らしい。
本作はそんな幻影兵として召喚されたごく普通の女子高校生「カスミ」と、カスミを召喚したリズベット、エドガー、そして戦いの為に召喚された「ファントム」達それぞれの"戦う理由"というものを、痛烈に描いた作品であった。
暗黒竜デストルークにより支配された今作の世界の中で、リズとエドガーは多くのものを失いすぎた。家族を失い、かつてファントムとしてともに戦っていた仲間を失い、困窮し、それでも戦うことをやめなかった。
突如としてこの世界に召喚されたカスミは「何もできない無能」として村の人間から蔑まれた。元の世界にいたときと同じ言葉で叱責された彼女に特別な力はなく、ただただ世界の理に身を委ねるだけの存在になっていた。
幻影兵たちは心の"無"に取り込まれ、「人間の命令」で戦いを続けることに疑問を持つようになった。彼らの心の無は次第に膨らんでゆき、かつての仲間であるリズやエドガーたちにも刃を振るうまでに至った。
わたし、いつも誰かの為に生きていたーーー。
カスミの抱えていた痛みはきっとリズにもエドガーにも幻影兵にもあったのだと思う。
幼い頃から演劇の世界に夢を抱いていたカスミは、母の「何もできない」という言葉を胸にしまい込み、自分が本当にやりたいことをやらなかった。
涙は似合わないんだぜ、とキザなセリフを吐いていたエドガーも、たとえ落ちこぼれでも全てを救うと息巻いていたリズも、この残酷な世界に抗うことしかできなくなっていた。
それぞれの"意志"を心に宿した幻影兵たちでさえも、その願いが叶わない現実を前に悲観した。
みんながみんな、目の前の環境に抑圧され、本当の心を隠してしまっていた。
それは仕方のないことだろう。
自分がやりたいこととやるべきことは違う。自分の為に生きることだけが正解じゃない。僕は彼女たちの痛みを簡単に理解できるだなんて言えないし、彼らの希望を容易に支えてあげることなんてできない。
だけど、それでも、その感情は理解できると思う。自分の心を抑圧して、自分を取り巻く環境の中だけに身を置いたら、それこそ自分が自分で亡くなってしまう。自分の本心を露わにすべきときに、なにかの所為にして本心を隠してしまう。
誰よりも人の心を受け入れて生きてきた「カスミ」にとってこれは、自分の"本心"に気づく物語だったのだと思う。それはカスミを見て奮起したリズ、エドガー、幻影兵達も同じだ。
話の中で次第に変わってゆくキャラクターたちを目の当たりにして、僕はぼんやりと、そんなことを考えていた。
2019.06.30
ぶれぶれのジョニー
(((((( c(・ω・()・ω・)っ)))))